第4話『歪んだ聖域への潜入 〜美しき帰国子女と、硝子の板の盗難事件〜』(前編)

私小説『電脳の竜と白理の狼 〜デジタルハッカーと明治のリーガル・ガール〜』

皆様こんにちは!『電脳の竜と白理の狼』をお読みいただきありがとうございます。

いよいよ、学校内で初めて対峙する事件と向き合う第4話がスタートします。

明治からタイムリープしてきたばかりで右も左もわからない橘彩華ですが、バディを組む神城綾音のサポートを受け、また法律の力を借りて、事件を見事に解き明かすことが出来るでしょうか?

では、本編へ入る前に第3話のあらすじを振り返ってみましょう。

■第話あらすじ
橘彩華は神城綾音の紹介で、妃比谷高校の理事長・片桐果弦と出会う。

生活支援を条件に持ちかけられたのは、校内で暗躍する「特権階級の生徒たち」による事件の解決だった。

親の権力を盾に、カーストを敷いて陰湿なトラブルを繰り返す生徒たち。

その実態に強い憤りを覚えた彩華は協力を快諾。

こうして、(令和)の電脳ハッカー・綾音と明治のリーガルガール・彩華の異色バディが結成された。

――ここから、2人の新たな戦いが幕を開ける。

【神城綾音の脳内プロット】第4話『歪んだ聖域への潜入 〜美しき帰国子女と、硝子の板の盗難事件〜』

片桐理事長の計らいにより、彩華は綾音の広い自宅で居候をすることに。

男女同居に最初は戸惑う二人。

綾音は彩華の「かんざし」を預かり、学校でのサポート用にハッキング機能付き骨伝導かんざしへと魔改造する。

翌日、買い出しの裏で片桐による転入手続きが完了。

制服のリボンには超小型カメラ(彩華着用時のみ作動)が仕込まれる。

さらに、通信が途絶える時間帯(体育や更衣室など)のサポート役として、理事長が事前に潜入させていた協力者・夏見菖蒲を紹介される。

転入当日、担任に先導されて教室へ。

片桐の作戦通り、猛特訓したフランス語の挨拶を披露。

「フランスでは15歳以下はSNS禁止で、タブレットも触ったことがない」と言い訳を用意し、初日の「世間知らずな言動」への保険をかける。

1限目の授業中、電子機器(タブレットPC)を初めて見て困惑する彩華。

すかさず「鉄の板に硝子の面で覆われた謎の板は何ですか?」と質問してしまい、周囲をざわつかせるが、綾音の機転と菖蒲のフォローで「フランス帰りの世間知らず」として事なきを得る。

お昼休み、彩華は食堂で楽しい時間を過ごす。

しかし教室に戻ると、クラスメイトの二階堂結衣のカバンからタブレットPCが消失していた。

直前まで使用されていたため「お昼休みの間に盗まれた」ことは確実。しかし、廊下の防犯カメラには誰も教室に立ち入る姿は映っておらず、物理的に「盗み出すことは不可能」な状況だった。

彩華は持ち前の行動力で、お昼休みに食堂にいなかった人物の証言を集める。

浮上したのは、親の強力な権力を盾にする以下の3名の特権階級生徒。

  • 畝田美空(母:検察庁長官)
  • 浅田秀一郎(祖父:大物国政議員)
  • 萩田一翔(父:浅田派の中堅議員)

誰もが手を出せない「学園のカースト上位」の彼らの中に犯人はいるのか? カメラの死角を突いた「消えたタブレット」の謎に、彩華と綾音のバディが挑む。

【第4話ストーリー】『歪んだ聖域への潜入 〜美しき帰国子女と、硝子の板の盗難事件〜』(前編)

「ええっ!? きょ、共同生活、ですか……っ!?」

片桐果弦の執務室に、橘彩華(いろは)の素っ頓狂な声が響き渡った。
隣に立つ神城綾音は、あからさまに「マジかぁ……」と深いため息を吐き、前髪をくしゃくしゃとかきむしっている。

「そう身構えなくてもいいじゃないか」

片桐は悪びれもせず、高級そうなデスクの向こうで紅茶を啜った。

「綾音の両親は海外赴任中でね。あの広い一軒家に、今は彼が一人で暮らしているんだ。部屋なんて余るほどある。何より、身寄りのない君が路頭に迷わないよう、日常生活のサポートも含めて管理するには、彼の家に居候させてもらうのが一番合理的だからね」

「合理的一択で人の平穏を奪うなよ、おっさん……」
ぶつぶつと文句を言う綾音だったが、彩華もこれ以上は強く言えなかった。実際、この令和の世において、彼女には戸籍もお金も、帰る家すらないのだ。片桐の提案を断る道理はどこにもなかった。

こうして、バディ結成早々、二人の奇妙な共同生活が幕を開けたのである。

「……ほら、それ。お前の『かんざし』、貸せよ」

綾音の自宅へ移動した日の夜。リビングのソファに座り込んでいた綾音が、不器用な手つきで手を差し出してきた。

「え? 髪をまとめる、これでございます――あ、これ、ですか?」
あわてて口調を正した彩華に、綾音は小さく呆れたような笑みを浮かべた。
「そう。明日からの潜入調査で連絡を取り合えるようにさ、少し改良してやるから。骨伝導式の通信機器を組み込むんだ。ちょっとは役に立つだろ」

彩華が恐る恐る手渡すと、綾音はそれを愛おしそうに眺め、すぐに自室のパソコン前へと引きこもっていった。
現代の機械に囲まれた長い一日に、彩華の体は限界を迎えていた。割り当てられた一階の和室に布団を敷き、「おやすみなさい」と小さく呟いて、彼女は吸い込まれるように深い眠りに落ちた。

翌日は、嵐のような一日だった。
片桐のサポートのもとで現代の衣服や生活必需品を買い揃え、同時に妃比谷高校への転入手続きが着々と進められていく。

「できたぞ。ほら、かんざし」

帰宅後、綾音から返された「橘のかんざし」は、見た目は明治の頃と全く変わらない。だが、裏側には極小のチップと金属端子が埋め込まれていた。

「お前がそれを身に着けている間だけ、骨伝導で俺の声が脳内に直接届く。制服の胸元のリボンにも超小型のカメラを仕込んだ。こっちも、お前が制服を着用している時だけ連動して俺のモニターに映像が送られる仕組みだ。……更衣室とか、かんざしを外す体育の時間は、一切機能しないから安心しろ。俺に覗き趣味はねえから」

「の、覗き……!? な、何をおかしなことを言っているのですか! でも、機能が切れている間は、神城さんの助けは借りられないのですね?」
「ああ。だから、片桐さんが用意したもう一人の身内を頼れ。もう学校に潜入してるらしいから」

その「もう一人」とは、夏見菖蒲(なつみあやめ)。
片桐の影武者として一足先に生徒として潜入している女学生だ。クラス委員を務めており、面倒見の良い彼女なら、転入生のサポート役として動いても不自然ではないという。

「法学部進学クラスの、2年生……。よし、参りましょう!」

心のなかでそうつぶやきながら、用意された紺色の制服に身を包み、彩華は自らの胸を叩いた。

そして迎えた、潜入当日。

担任教師の先導で廊下を進む。明治の「学び舎」とは似ても似つかない、白く光る蛍光灯とコンクリートの校舎に、彩華は緊張で心臓が破裂しそうだった。

「みんな、静かに。今日から我がクラスに新しい仲間が加わる。フランスからの帰国子女、橘彩華(たちばないろは)さんだ」

ガラガラと引き戸が開き、教室内に入ると、一斉に数十人の視線が突き刺さる。

「橘さん、自己紹介を」
「は、はいっ!」

彩華は一歩前に出た。
耳元のかんざしから、かすかに綾音の『落ち着け。練習通りにいけ』という声が響く。彩華は喉をごくりと鳴らし、昨日片桐から叩き込まれたフランス語の挨拶を、丸暗記のままに一気に吐き出した。

「ボンジュール、ジュ マペル イロハ タチバナ。ジュ ヴィアン トゥ ジュスト ダリヴェ ドゥ フランス。ジュ ム レジュー ドゥ トラヴァイエ アヴェク ヴ!」

教室内が「おおっ……!」と一気にざわめく。
すかさず、彩華は精一杯の微笑みを浮かべて日本語を続けた。できるだけ古風な言い回しが出ないよう、頭の中で言葉を選ぶ。

「こんにちは。橘彩華です。この度フランスからやって来ました。どうぞ、よろしくお願いします!」

割れんばかりの拍手が湧き起こる。
(ひとまず、大成功です……!)
彩華は心の中で小さくガッツポーズをした。「フランス帰りの世間知らず」という設定さえ通れば、これからの多少の奇行もすべて言い訳が立つ。片桐の策略は見事にはまった。

「橘さんは、夏見の隣の席に行って」

担任に指示され、彩華が席へ向かうと、隣の席のショートカットの女子生徒が「よろしくね、彩華ちゃん」と気さくにウインクをしてきた。彼女こそが、片桐の影武者・夏見菖蒲だった。

だが、安堵したのも束の間。一限目の授業が始まった瞬間、彩華は凍りついた。

「では、全員タブレットPCを出して、今日のテキストの32ページを開くように」

講師の言葉に従い、周囲の生徒たちが一斉にカバンから「薄くて黒い、鉄と硝子でできた板」を取り出し始める。

「たぶれっと……?」
教材セットに入ってはいたものの、何が何やらチンプンカンプンだった代物だ。彩華はパニックになり、考えるより先に、ピンと右手を挙げてしまった。

「先生! 皆さんが持っている、その『鉄か硝子の板らしきもの』は何ですか!?」

静まり返る教室。
耳元のかんざしから『お前っ……! 何やってんだバカ!』と綾音の悲鳴が聞こえる。隣の菖蒲も「えっ!? タブレット知らないの!?」と素で驚いて目を丸くした。

『いろは、言い訳だ! フランスのネット規制の話をしろ!』
脳内に直接響く相棒の怒声に、彩華は必死で言葉を紡いだ。

「あ、あの! フ、フランスでは、15歳未満の児童に対する有害な情報通信の制限が厳しくて! 我が橘(たちばな)家でも、そのような電子機器は一切与えられず、すべて紙の書物で学んできました!」

一瞬の静寂の後、「へぇー、フランスって厳しいんだ」「お嬢様なんだね」と、クラスメイトたちが納得したように頷き合った。
『……ふぅ、心臓に悪い。ナイス機転、菖蒲、フォロー頼むぞ』
綾音の安堵したため息が聞こえる。隣の菖蒲が「そっかそっか! じゃあ、電源の入れ方から教えてあげるね」と優しく手を差し伸べてくれたおかげで、なんとか授業を乗り切ることができたのだった。

あっという間に午前の授業が終わり、お昼休み。
妃比谷高校では全員が食堂で食事を摂る決まりになっている。彩華は菖蒲に案内され、クラスメイトたちと合流して食堂へと向かった。
初めて食べる現代の「オムライス」という料理の、とろけるような美味しさに感動しながら、彩華は菖蒲たちと親睦を深めていく。

だが、その楽しい時間の裏で、教室には不穏な魔の手が忍び寄っていた。

「……あれ? ない。嘘、なんで……?」

食事を終え、和やかに教室に戻ってきた直後のことだった。
クラスメイトの一人、二階堂結衣(にかいどうゆい)が、カバンの中を青い顔でひっかき回している。おっとりとした地味な佇まいのお嬢様である彼女は、涙目になりながら菖蒲にすがりついた。

「菖蒲ちゃん、どうしよう……私のタブレットPCがないの」
「えっ!? 結衣、よく探した? 別のポケットとかは?」
「ないの。さっきの授業が終わるまでは、確かにここにあったのに……」

ただならぬ様子に、ちょうど教壇に入ってきた担任に菖蒲が告げた。
「先生! 結衣のタブレットPCが無くなっています!」

教室が一気にざわめきに包める。
授業は一時中断され、全員で教室中を捜索することになった。しかし、どれだけ探しても、結衣のタブレットPCは出てこない。

「直前の授業までは、確かに二階堂さんが使っていたんだな?」
担任の問いに、彩華は「はい、隣でしたので、私も確かに見ました」と証言した。つまり、紛失したのは間違いなく「お昼休みの間」ということになる。

だが、奇妙なことがあった。
『彩華、妙だぞ』
かんざしを通じて、自室のモニターの前にいる綾音の声が響く。

『お昼休みの間、生徒は全員食堂に行くルールだろ。それに、俺が学校の廊下の防犯カメラのログを今ハッキングして確認したが……昼休みの間、誰一人としてお前たちの教室に立ち入った奴は映ってねえ』

「え……?」
彩華は思わず声を漏らしそうになり、口を手で覆った。
防犯カメラに誰も映っていない。つまり、物理的に盗みに入ることは不可能な状況だったのだ。

「誰の出入りもないのに、物が消える……。まるで狐につままれたみたいですね」
ボソリと呟いた彩華に、菖蒲が真剣な表情で耳打ちした。

「彩華ちゃん。実はね、お昼休みの間、食堂に姿を見せなかった生徒が3人いるの。その3人なら、カメラに映らずに教室へ入る方法を知っているかもしれない。だけど……」

菖蒲は顔を曇らせ、手帳に書き留めた3人の名前を彩華に示した。

「この人たち、この学校の『特権階級(カースト)』のトップにいる人たちなの。下手に疑ったら、私たちがこの学校にいられなくなる……」

手帳に並ぶ名前と、その親の肩書き。

畝田美空(うねだ みく)
(母親:女性初の敏腕・検察庁長官、畝田麻美)

浅田秀一郎(あさだ しゅういちろう)
(祖父:超有名国会議員、浅田宗一郎)

萩田一翔(はぎた かずと)
(父親:浅田派の中堅国会議員、萩田一心)

「……国家の権力を傘に着る、不届き者たち、ですね」

その名を見た瞬間、彩華の切れ長の瞳に、鋭い正義の炎が灯った。かつての明治の世で、弱者を虐げていた特権階級の影が、現代のこの学校にも色濃く落ちている。

『面白くなってきたじゃん。消えたタブレットと、カメラの死角、そして学校の支配者たち、か』
通信の向こうで、綾音が不敵に笑う。

「神城さん、これより捜査を開始します」
『おう。化けの皮を剥ぎ取ってやろうぜ、明治のリーガルガール』

潜入初日。現代の法律とデジタルの力を携えた二人の前に、最初の巨大な壁が立ちはだかった。

次回予告

片桐果弦の依頼により、不穏な空気が漂う私立・妃比谷高校へと潜入した橘彩華

しかし転入初日、クラスメイトのタブレットPCが消失するという謎の事件が勃発する。

生徒全員が食堂にいたはずの、わずかな空白の時間

教室前の防犯カメラには、不審な人物の姿は一切映っていなかった

完璧なアリバイと、完璧な密室。だが、夏見菖蒲の証言により、お昼休みに食堂に姿を見せなかった「3人の特権階級の生徒」の存在が浮上する。

国家の権力を盾にする彼らの中に、犯人はいるのか?

現代のデジタルな謎に、明治のリーガルガールとハッカーの異色バディが真っ向から挑む!

次回、第5話『歪んだ聖域への潜入 〜美しき帰国子女と、硝子の板の盗難事件〜(後編)』

――暴走する特権を、法の光で照らし出せ。

まとめ

『電脳の竜と白理の狼 〜デジタルハッカーと明治のリーガル・ガール〜』第4話をお読みいただき、ありがとうございました。

妃比谷高校へ転入した橘彩華の前に現れる、個性豊かな新キャラクターたち

目まぐるしい展開のなか、早くも最初の事件が勃発しました。

作者自身、この先の展開やトリックの構築に少し頭を悩ませておりますが、読者の皆様と一緒に楽しみながら、AIのサポートも得て面白い解決編を創り上げていきたいと考えています。

ぜひ温かい目で見守っていただければ幸いです。

それでは、今回はこのへんで。

犯人との本格的なバトルが始まる第5話も、どうぞお楽しみに!

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