いつも『電脳の竜と白理の狼』をお読みいただきありがとうございます!
リベンジポルノ事件が解決し、ようやく明るい兆しが見えてきた妃比谷高校。
しかし今度は、生成AIを用いた悪質な誹謗中傷事件が勃発します。
とある女性政治家に向けられた卑劣なフェイク動画は、その息子である本校の生徒にまで波及し、活動不能に追い込むほど世間を過熱させていくのでした。
果たしてT.C.S.Lはこの事件を解決できるのでしょうか?
今回は事件勃発編をお届けします。まずは前回のあらすじをおさらいしておきましょう。
【第12話あらすじ】
事件の加害者であるサッカー部U-18黄金世代とその親たちへ処遇が下される一方、T.C.S.Lメンバーで陸上部エースの夏見菖蒲が女子高校生日本新記録を樹立。
光と闇が対比となる顛末をたどりました。
被害者・上条陽向の心も少しずつ癒え、束の間の平穏が訪れたかに思えましたが……妃比谷高校に、またしても悪質な闇が忍び寄ろうとしていたのです。
神城綾音の脳内プロット:第13話『不協和音の残響と偽りの鍵盤(フェイク)(前編)』

夏見菖蒲が女子陸上400m(高校生の部)で日本新記録を樹立し、見事に優勝を果たしたあの栄光の日から数日後。世間を賑わす新たな闇が永田町を席巻しようとしていた……。
その新たな闇とは、中堅議員ながらも一度は野党第一党として国民の支持を集めていた「結信未来連合」の政治家・澄川冴子(すみかわさえこ)に対する、悪質な誹謗中傷フェイク動画がSNS上で爆発的に拡散された事案であった。
T.C.S.Lの面々はそんな闇が降り注いでいることなど知る由もなく、普段通りの学園生活を満喫していたが、そこへ澄川冴子の息子であり、妃比谷高校3年生の澄川真白(すみかわましろ)が理事長・片桐果弦のもとへ相談を持ちかけてくる。
澄川真白は、妃比谷高校が誇る天才高校生ピアニストとしても注目されている人物だ。自校の生徒であることはもちろん、学校の名を高めてくれた功労者の危機を、片桐が放置できるはずもなかった。
片桐はT.C.S.Lの面々に引き合わせるため、澄川親子を妃比谷高校の音楽室へと招き入れる。
しかし、夏見菖蒲は陸上大会の疲れが取れずにこの日は欠席。片桐自身も理事長職に追われ、他の事案には手まわらず、生徒ではない神城綾音も校内にはいない。この日、校内に残って対応出来たのは“明治のリーガル・ガール”こと橘彩華と、二階堂結衣の二人だけであった。
彩華と結衣は片桐から大まかな事情を聞かされた後、澄川親子から直接話を聞くために音楽室へと向かう。
既に放課後を迎え、あたりは夕暮れに包まれていた。
フェイク動画を用いた姑息な誹謗中傷被害の全貌を聞きながら、彩華と結衣は込み上げる怒りを必死に抑え込む。
そして話し終え、涙を流してうなだれる澄川親子を、二人は優しく包み込むのだった。
一方、音楽室の様子をモニター越しに自室から見ていた神城綾音は、すかさずSNSの調査を開始する。
澄川親子の言葉通り、SNS上では冴子がクリーンな政治家像とは程遠い不倫やわいせつ行為などのスキャンダルを連発しているという、身に覚えのないデマが拡散されまくっていた。さらに、その動画には巧妙に生成AIが用いられていることまで判明する。
被害はそれだけに留まらず、息子の真白にまで波及していた。「スキャンダル政治家の息子」として罪のない真白にまで無数の誹謗中傷が集まり、自宅の周りには野次馬や取材陣が押し寄せ、精神的に追い詰められているというのだ。遺憾にもほどがある現状であった。
状況を把握した綾音は、苛立ちを募らせながらも冷静に「この手の事件は過去にも経験がある。なんとかしてやろうぜ」と彩華に告げる。
片桐の助言もあり、ひとまず真白を休学扱いとし、綾音の自宅で匿いながら事件解決に着手することとなった。
なお、政治家として活動する冴子については、「自分のことはいいから息子を頼む」という強い要望があったことや、パパラッチ等に追われて綾音の自宅の場所が割れてしまっては真白を匿う意味がなくなることから、彼女自身は自力で耐え忍んでもらうことになった。
身を粉にして息子を守ろうとする、まさに理想の母親としての決断であった。
不特定多数が便乗して炎上状態となっている以上、拡散された誹謗中傷の投稿すべてを一つずつ処理することは到底不可能である。しかし、事件の元凶(根本)を断つことは十分に可能なはずだ。
果たしてT.C.S.Lの面々はこの難局を突破し、澄川親子を誹謗中傷フェイク動画の恐怖から救い出すことができるのだろうか――?
AIが創ったストーリー・第13話『不協和音の残響と偽りの鍵盤(フェイク)(前編)』

夏見菖蒲が女子陸上400m(高校生の部)で衝撃的な日本新記録を叩き出し、栄冠を手にしたあの日から数日。大会の興奮冷めやらぬ世間の裏側で、永田町の深層を揺るがす暗雲が垂れ込めていた。
中堅議員ながらクリーンな政治理念で確かな支持を集める野党「結信未来連合」の澄川冴子。彼女の地位を力任せに引きずり下ろそうとする悪意――生成AI技術を悪用した、悪質な誹謗中傷フェイク動画がSNS上を爆発的に駆け巡っていたのだ。
◇
「ふぅ……今日の授業はいつも以上に集中力を使いましたね」
放課後、茜色に染まる妃比谷高校の廊下を歩きながら、橘彩華が小さく息を吐く。
「ええ、菖蒲ちゃんがいないと、なんだか寂しいのもあるかもしれないけれど……」
隣を歩く二階堂結衣も、どこか気遣うような眼差しで頷いた。
そんな会話を交わしながら、二人は夕暮れに包まれた廊下を静かに進んでいく。
陸上大会の疲労が抜けず休校している菖蒲の不在に加え、生徒ではない神城綾音は当然校内にはいない。この日、校内で動くことができるT.C.S.Lのメンバーは、実質この二人だけだった。
音楽室へと向かう二人の頭にあったのは、先ほど理事長室で片桐果弦から告げられた言葉だ。
妃比谷高校が生んだ天才高校生ピアニストであり、澄川冴子の息子である3年生・澄川真白。彼が切迫した様子で理事長室へ相談に訪れた際、片桐は真白の言葉を真摯に受け止めていた。
しかし、学校運営に関わる理事長職の実務が極めて多忙を極めており、片桐自身が事件解決のために動く余力はない。
『我が校の名を高めてくれた大切な生徒を、見捨てるわけにはいかない。だが私自身は職務から手が離せん……二人とも、頼めるか』
信頼を寄せる片桐から案件を委ねられた(トスされた)彩華と結衣は、澄川親子が待つ音楽室へと足を進めていたのだった。
重厚な音楽室のドアを開けると、そこにはピアノの横で肩を落とす少年と、その肩を抱く女性の姿があった。
「……来てくれたのね。ありがとう」
澄川冴子の顔には濃い疲弊の色が滲んでいた。SNS上で拡散されている動画――不倫やわいせつ行為に身を投じる彼女の姿は、すべて巧妙に作られたデマだ。しかし、ネットの悪意は事実関係など置き去りにして燃え広がる。
さらに被害は息子の真白にまで波及し、「悪徳政治家の息子」と罵倒する投稿が相次ぎ、自宅周辺には不躾な取材陣や野次馬が殺到しているという。
「僕のピアノのことまで……『どうせ親の不正な金で買ったんだろ』って……」
真白は唇を噛み締め、悔し涙を床に零した。話を聞いていた彩華の瞳に、明治の法を背負う者としての凛烈な怒りの火が灯る。結衣もまた拳を握りしめ、二人の震える背中にそっと手を添えた。
「――許せませんね。法と言論の自由を、個人の尊厳を踏みにじる道具に落としめるとは」
◇
その頃、綾音の自宅。マルチモニターの青白い光に照らされた暗い部屋で、神城綾音はクラッカーのように高速でキーボードを叩いていた。彩華のネクタイピンに仕込まれた超小型カメラからのリアルタイム映像をサブモニターで確認しつつ、SNSのデータストリームを解析していく。
「チッ……ご丁寧にディープフェイクのモデルまで最適化してやがる。素人の嫌がらせじゃねえな、こいつはプロの仕業だ」
綾音は自室の通信コンソールに向かい、マイクに声を乗せた。
その音声は即座に電波となり、彩華の髪を留める橘のかんざしへと届けられる。綾音によって高度に改造されたそのかんざしは、骨伝導によって彩華の頭部にだけ綾音の声を直接響かせ、同時に周囲の音声や彩華の呟きを綾音へ送り返す双方向通信機として機能していた。
『彩華、聞こえるか? 真白たちの話は本当だ。動画の拡散速度が異常すぎる。botネットを使った組織的な世論誘導だ』
「綾音さん……この状況、打破できますか?」
『ハッ、舐めんなよ。この手の技術的詐欺は過去にも何度か潰してきてんだ。元凶のサーバーを特定して、根本から断ってやる』
綾音の冷徹ながら頼もしい言葉に、彩華は小さく頷いた。
片桐の助言もあり、真白は安全のために一時休学扱いとし、パパラッチの目が届かない綾音のアジト(自宅)で保護することが決定した。
冴子自身は「私のことはいい。どうか息子を守ってください」と強く申し出た。自身が匿われれば、追うパパラッチによって真白の潜伏先まで特定される危険がある。身を粉にして我が子を護ろうとする、まさに母としての矜持であった。
「……澄川議員、真白さんは必ず守り抜きます。そして――この卑劣な仕掛け人に、正当な法と技術の裁きを受けさせましょう」
彩華の力強く、けれど温かい言葉が静かな音楽室に響き渡る。
「……ありがとうございます……っ、本当に……ありがとう……」
T.C.S.Lが味方になってくれたという確信と安堵が押し寄せた瞬間、糸が切れたように澄川冴子の目から大粒の涙が溢れ出した。息子を守ろうと張り詰めていた緊張が解け、声を殺して泣き崩れる母。その隣で、真白もまたピアノの傍らに膝をつき、溢れる感情を抑えきれずに目元を拭った。
理不尽なネットの悪意と、身に覚えのない誹謗中傷に晒され続けた恐怖。孤独な絶望の中にいた二人を包み込んだのは、差しのべられた確かな救いの手だった。
彩華と結衣は顔を見合わせると、静かに澄川親子へ歩み寄る。
彩華は冴子の震える肩へ優しく手を添え、慈愛に満ちた眼差しで寄り添う。結衣もまた膝を折り、真白の背中にそっと手を当てて、その涙を受け止めた。夕陽が差し込む茜色の音楽室で、四人の影が穏やかに重なり合う。
不特定多数が狂乱に便乗する巨大な炎上。ネットの海を漂う『#偽物』『#汚職政治家』『#演奏家失格』といった卑劣な言葉の刃が、二人の心をどれほど深く傷つけてきたことか。
だが、どれほど複雑に絡まった糸であっても、始点となる結び目は必ず存在する。
電脳の竜と白理の狼――二人の能力が交錯するとき、姿なき影の悪意は暴かれ、奪われた静かな旋律が再び響き渡るはずだ。
澄川親子を襲う不協和音を断ち切るため、T.C.S.Lの新たな戦いが、今ここに幕を開けた。
次回予告

AIフェイク動画が引き起こした、姑息で卑劣なネットリンチ。
それは一人の政治家にとどまらず、その息子の未来さえも踏みにじろうとしていた。
ネットの海を呑み込む壮大な事件を前に、T.C.S.Lが被害者親子の救済へ動き出す。
汚名を着せられた母・冴子と、絶望に瀕する息子・真白。二人を待ち受ける運命とは——。
第14話「不協和音の残響と偽りの鍵盤(フェイク)(後編)」
「澄川親子に浴びせられた嘘の旋律(ノイズ)は、私たちがすべて打ち消してみせる」
次回もお楽しみに⋯
まとめ
いつも「電脳の竜と白理の狼」をご覧いただきありがとうございます!
今回は、現実でも猛威を振るう「AIフェイク動画による誹謗中傷」をテーマにした事件をお届けしました。
身を粉にして国民に尽くしてきた澄川冴子を襲う、事実無根のネットリンチ。
さらにその悪意は息子の未来まで巻き込んでいきます。
親子の尊厳を踏みにじる姑息な事件に対し、T.C.S.Lのメンバーはどう立ち向かっていくのか——?
第14話「不協和音の残響と偽りの鍵盤(フェイク)(後編)」も、ぜひ最後まで暖かく見守っていただければ幸いです。
それでは今回はこの辺りで。次回もお楽しみに!




コメント